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東京高等裁判所 昭和34年(う)900号 判決

控訴人 被告人 東亜電機工業株式会社 外一名

弁護人 小池金市

検察官 子原一夫

主文

本件各控訴を棄却する。

理由

弁護人小池金市の控訴理由は、末尾添付の控訴趣意書記載のとおりである。

しかしながら、原判示第一から第五までの各事実は、いずれも原判決挙示の対応証拠によつて認めることができ、記録及び証拠物を精査してみても原判決の事実認定にいささかも誤ある廉は見い出されない。すなわち、被告人が被告会社の業務に関して原判示のごとく工業標準化法第一九条第五項(無許可表示の禁止)の規定に違反して被告会社の取扱う「指定商品たる電球の容器に「JIS規格品」なる文字を印刷したラベルを貼付したことは、関係証拠とくに被告人の原審公判廷における供述並びに検察官に対する各供述調書の記載及び小谷野茂の検察官に対する各供述調書の記載によつてきわめて明白であつて、所論のように被告会社が原判示各取引先会社の製造下請会社であつて、被告会社において本件商品の製造業者としての取引先のラベルの貼付を代行したのに過ぎないものとはとうてい肯認できない。もつとも本件ラベルにはいずれも注文主会社名又はその商標が印刷されていることは事実であるが、右各注文主会社の関係人今沢正吉、尾高清、今泉三郎、久保田春吉及び塩沢一二の原審公判廷における証言又は検察官に対する供述調書の各記載に徴すれば、右各会社はいずれも本件商品の仕入注文主として該製品の販売者としての会社名又は商標をラベルに表示することを被告会社に依頼したものと認められ、とくに原判示「JIS規格品」なる文字の表示については、右各注文主において、被告会社が主務大臣から所定の許可を受けていないことを知りながら被告会社に対しこれが表示を指示し、又は被告会社と意思を通じてかかる表示をさせたものとみるべき跡は見い出されないが故に、よしや所論のごとく、本件ラベルに被告会社名の表示はなく、その図案が取引先に示されその許可を受けて決定されたものであり、またその印刷代、紙代などを注文主会社が折半負担した事例があつたとしても、これらのことの故をもつて本件ラベルの表示について刑責を負うべきいわれはないというべきである。であるから本件犯行を被告会社の単独犯行と認定した原判決には誤はない。また、工業標準化法第一九条第五項にいう同条第一項の規定によるいわゆる「指定商品」が日本工業規格に該当するものであることを示す表示の記載事項として同法施行規則第六五条に定められたもののうち、最も主要なものは「JISという文字」であることはいうをまたないところであるが故に、本件商品(それが「指定商品」であることは、昭和二五年七月二八日通産省告示第一二七号によつて明らかである)の容器のラベルに表示された「JIS規格品」なる文字が、それだけでも右法規条項にいう日本工業規格に該当するものであることを示す表示に紛わしいものであることは明白であつて、所論のように右文字の外に日本工業規格番号、許可番号などをも併せて記載しなければ紛わしい表示ではないというわけのものではないというべきである。であるから被告会社の使用した原判示表示につき同法第一九条第五項に違反するものとした原判決は法令適用に誤はない。よつて控訴趣意第一、及び第二の各所論はいずれも採るべからざるものである。

(その他の判決理由は省略する。)

(裁判長判事 尾後貫荘太郎 判事 堀真道 判事 本田等)

小池弁護人の控訴趣意

第一、原判決には次の通り法令の適用の誤がある。

原判決は「被告会社は……「JIS規格品」という文字を印刷したラベルを貼布して、(中略)日本工業規格に該当することを示す表示と紛らわしい表示を附した」と罰となるべき事実を述べている。しかしながら「JIS規格品」と言う文字だけでは、日本工業規格に該当することを示す表示と紛らわしい表示ではない。何故ならば工業標準化法施行規則第六十五条には、法第十九条第一項の表示(日本工業規格に該当することを示す表示)には、左に掲げる事項を記載しなければならないとして、一、JISという文字 二、該当する日本工業規格の番号 三、該当する日本工業規格に等級又は種類が定められているときはその等級又は種類 四、許可番号 五、商品の製造年又はその製造年を表わす略号 六、製造業者名又は製造業者名を表わす略号 とある。右の中、被告会社が記載したのは、第一、六号のみであつて、他の許可番号、規格番号等の記載はない。日本工業規格品としては、これら番号の記載のあることが、社会一般の常識と言つて良い状態であるから、被告会社の使用した表示のみでは到底同法第十九条に言う紛らわしい表示と言うことを得ないのである。従つて被告会社のなした行為は同法第十九条に違反するものではない。

第二、仮りに右の主張が認められないとしても、原判決には次の通り事実の誤認がある。

原判決は、罰となるべき事実を被告会社の単独犯であると認定しているが、これは事実の誤認であつて、実際は被告会社並びにその取引先との共犯であり、被告会社は取引先の表示を幇助した従犯に過ぎない。被告会社の証人は自己の取引先に累の及ぶことを怖れて、真実を言い渋つているが、告発状添付資料四乃至七、九、十に依つても明らかな様に、ラベルに依つて表示されているのは、被告会社の取引先各会社であつて、被告会社の名称は何処にも出ていないのである。そうして、これは右に示された以外のラベル総てについても同様である。(三平証人尋問記録第二五六丁裏)即ち、右のラベルは被告会社の取引先のラベルであつて、被告会社が取引先の下請会社と同様な機能をなしていた(右同証人尋問記録二六五丁裏)ところから、便宜被告会社において取引先のラベルの貼布を代行したに過ぎず、右のラベルの図案は取引先に示して、その許可を受けた上で決定されていたのである(小田原供述記録第二七一丁裏)。従つて多くの場合はサービス料として、そのラベル代は、取引先に請求はしなかつたが、その印刷代、紙代等について、折半して負担したこともあるのである(小谷野証人尋問記録第一七九丁表)。以上の如く、本件ラベルの表示の主体は、被告会社の取引先であり、従つて若しその内容について責任を負担しなければならないことがあるとすれば、被告会社の取引先が負担すべきなのであつて、被告会社は精々それを幇助した責任を問われるに留まるべきだと思料する。

(その他の控訴趣意は省略する。)

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